映画と生活

映画のあるとき 映画のないとき

映画館で映画を観るということ『デッド・ドント・ダイ(2019)』

 映画館に行ってきた。再開したらすぐにでも行こうと思っていたのに出遅れた。タイミングが悪く仕事が繁忙期に入ったからだ。でも、仕事がちゃんとあり、さらには忙しいということはありがたいことだ。とやかくは言うまい。

 

 再開が決まる中、復帰作は何が良いか考えていた。見たい作品は無限にある。でもなんとなく、もう一度改めて映画と向き合うことになるこのタイミング。大事な作品を選びたい。

 

 往年の名作が再上映されている。期待の新作も目白押しだ。

 数日の熟考の上、選んだのはこちら。

 

『デッド・ドント・ダイ』

The Dead Don't Die
2019/スウェーデンアメリカ合作

 

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ジム・ジャームッシュのゾンビ映画『デッド・ドント・ダイ』予告編

 

 公開が延期になっていた今作。日本中が楽しみにしていた今作。奇才で鬼才。ジム・ジャームッシュの新作だ。しかも内容はゾンビもの。ジム・ジャームッシュが手がけるゾンビ映画なんて、想像するだけで鼻息が荒くなってくる。

 

 ゾンビ。死者が蘇る。再び、立ち上がる。

 映画館はまさに今、再び立ち上がろうとしているし、ぼくも再び映画館を彷徨おうとしている。うん、復帰作にはこれしかない。

 

 あらすじはこちら。

 

鬼才ジム・ジャームッシュビル・マーレイアダム・ドライバーを主演にメガホンをとったゾンビコメディ。アメリカの田舎町センターヴィルにある警察署に勤務するロバートソン署長とピーターソン巡査、モリソン巡査は、他愛のない住人のトラブルの対応に日々追われていた。しかし、ダイナーで起こった変死事件から事態は一変。墓場から死者が次々とよみがえり、ゾンビが町にあふれかえってしまう。3人は日本刀を片手に救世主のごとく現れた葬儀屋のゼルダとともにゾンビたちと対峙していくが……。ジャームッシュ作品常連のマーレイ、「パターソン」に続きジャームッシュ組参加となるドライバーのほか、ティルダ・スウィントン、クロエ・セビニー、スティーブ・ブシェーミトム・ウェイツ、セレーナ・ゴメス、ダニー・クローバー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズイギー・ポップらが顔をそろえる。2019年・第72回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。

 

引用元 映画.com

 

 映画館に着く。何度となくお世話になっている、新宿バルト9。1階の発券機は密を避けるためか、使用停止。上階のロビーへ向かう。安心すべきか、悲観すべきか、ロビーにいるお客さんは数えられる程度だ。予約のチケットを発券する。消毒と検温を済ませ、劇場へ向かう。トイレに行く。体調を整え、我が座席へ向かう。座席はもちろん、ソーシャルディスタンス。

 密閉空間だとしても、皆が劇場の対策に従い、マナーを守れば、はっきりいって、映画館での感染の心配は皆無だと思う。映画館の皆様、安全に運営していただき、ありがとうございます。安心して映画に集中できる環境に感謝しかない。

 

 予告編が終わる。間もなく本編が始まるであろうこの瞬間。照明が徐々に落ちていくこの瞬間。暗闇が訪れた時、改めて思う。体がこの空間を欲していたことを。この幸福な暗闇を欲していたことを。ああ、これだ。ぼくは、映画館で映画を観ることが好きだ。

 

 幸福な104分はあっという間に過ぎ去った。

 

 まさにジム・ジャームッシュゾンビ映画だった。それだけでもう十分。大きな感動も笑いも衝撃もない。でもそれは今までだって同じだ。何も文句はない。

 

 唐突にゾンビは現れる。だが、そこに緊張感も何もない。かと思って水を飲みながら油断していると、急に目を背けたくなるシーンが差し込まれる。しかも何度か繰り返す。次にどうなっていくのか分からない。まったく掴みどころがない。これこそ、ジム・ジャームッシュ 。ゾンビだろうがなんだろうが、どんな素材も彼の調理で唯一無二の味となる。そんな展開の中、要所要所で流れるこの作品の主題歌。テーマ曲はみんなが大好きだ。この描写には驚いた。(観た人には分かる)もしかして。。物語の後半、いい意味で予感は的中する。あらゆる境界も垣根も、こっそりと、いや堂々と超えていく。意外な展開に、ぼくたち観客はニヤつくほかない。

 

 どうやら賛否がある作品らしい。ぼくはもちろん賛の側だ。と言っても、ぼくは基本的にあらゆる映画に賛の立場であるが。

 

 もちろんすべての伏線に気付けないし、ストーリーは既視感があるし、最後は唐突に終わるし。だからといって別にいい。ちょっと分からないぐらいがちょうどいい。そもそも他人が考えたこと全てを理解しようなんて、図々しいことだ。ぼくは、ジム・ジャームッシュが手掛けたゾンビ映画を映画館で観れる時代に生きていることだけで満足だ。

 

 お客さんは少なかった。

 再開したといっても、映画館にとって厳しい状況に変わりはない。

 それでも映画館は再び立ち上がる。ゾンビのように何度でも。