映画と生活

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映画レビュー『サマーフィルムにのって(2020)』映画を未来につなぐ、夏。

1.作品情報

サマーフィルムにのって

2020/日本

監督:松本荘史

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https://movies.yahoo.co.jp/movie/374080/

 

 味わうべき旬を大きく過ぎしてしまってはいるが、昨年の話題作が近くで公開されていることを知り、いざ下高井戸へ。体からこぼれ落ちて久しい青春を、少しでも取り戻すために。

 

2.あらすじ

 勝新を敬愛する高校3年生のハダシ。 
 キラキラ恋愛映画ばかりの映画部では、撮りたい時代劇を作れずにくすぶっていた。 
 そんなある日、彼女の前に現れたのは武士役にぴったりな凛太郎。 
 すぐさま個性豊かな仲間を集め出したハダシは、 「打倒ラブコメ!」を掲げ文化祭でのゲリラ上映を目指すことに。 
 青春全てをかけた映画作りの中で、ハダシは凛太郎へほのかな恋心を抱き始めるが、 彼には未来からやってきたタイムトラベラーだという秘密があった――。

 (https://phantom-film.com/summerfilm/#story


www.youtube.com

 

3.監督

 本作を手がけるのは、松本荘史。CM、MV、ドラマなどの映像監督としてご活躍とのことで、代表作に、ドラマ『青葉家のテーブル』がある。(映画化もされている。もちろん見た。)

 映画初監督という本作に、胸が躍る。

 

4.主要キャスト

ハダシ(伊藤 万理華)

 時代劇オタクで本作の主役。映画部に所属しているが、自分の撮りたい時代劇がつくれず、くすぶっている。

 

凛太郎(金子 大地)

 ハダシの理想の武士。映画出演のオファーを受けるも、彼は未来からタイムトラベルしてきたという秘密を抱えている。

 

ビート板(河合 優実)

 天文部所属のハダシの幼なじみ。時代劇のことはよくわからないが、SFの知識に関しては一級品。

 

ブルーハワイ(祷 キララ)

 剣道部所属のハダシの幼なじみ。殺陣に詳しく、ハダシの映画作りをサポート。姉御肌な一方、最近はラブコメが気になって仕方がない。

 

花鈴(甲田 まひる

 映画部のお姫さま。ハダシ案を大差で退け、文化祭では自作自演のラブコメを上映予定。かわいすぎる見た目とキャラクターで全部員を魅了している。

 

5.レビュー(一部ネタバレ)

 「お前のこと、好きだわー!」

 晴天の下、校舎の屋上から男子高生の甘ったるい告白が鳴りひびく。声を受けとった女子高生花鈴は満足気に微笑みながら言う。

 「聞こえないー!」

 今年の文化祭で上映予定の「大好きってしかいえねーじゃん」の編集カットに、映画部一同は歓喜していた。ただ一人、時代劇フリークのハダシを除いて。

 

 冒頭は想定外にキラキラしていた。本音を言えば、少し戸惑った部分もある。だが、それは杞憂に終わった。ハダシの視線に、「もうやってられない」という冷淡と同時に、「映画はこんなもんじゃない」という情熱を見たからだ。彼女が巻き返すものがたりはここから始まる。

 

 「花鈴たちがつくるラブコメを凌駕する時代劇をつくり、文化祭を奪い取る」

 

 とはいえ、こんなありきたりなストーリーを想像してしまった自分を愚かだと思う。たしかに、このような反発心が作品内には芽生えていた。仲間が集い、「打倒花鈴!」になっていた。だが、対立構造に見せかけて進む本作の内側では、「映画を未来につなぐ」という「愛」が大事に育まれていた。

 

 現在と過去と未来は、言うまでもなくつながっている。

 

 「ザ・青春!」という顔をした高校生たちが、思い思いに自主映画を撮る、現在。

 勝新の『座頭市』や三船の『椿三十郎』に想いを馳せる、過去。

 タイムトラベルで現れた凛太郎を通して知る、これからの映画が辿るかもしれない、未来。

 

 それぞれ異なる時間軸を見つめる地点は、あくまで現在だ。過去への回想も、未来への想像も、映像で魅せるのではなく、できるだけ言葉で、もしくは対話で表現する方を選ぶ。過去と未来は、現在があってはじめて成立することに気付かされる。

 

 

 終盤、ハダシは、凛太郎の話す映画の未来に困惑する。未来には今の形での映画は残っていないと聞いたからだ。

 

 撮影をすっぽかし、絶望するハダシ。追いかける凛太郎。2人はぶつかり合い、言葉を投げ交わす。飾り気のない言葉は、静かにぼくの胸を打つ。ラブコメ風に煙に巻いているが、見逃してはならないシーンだ。

 

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 映画を未来につなぐには、どんな時代でも仲間が必要だ。本作には、ハダシを支える仲間が数多く登場する。その仲間がまた格別だった。

 

 ビート板は、持ち前のSF知識で応戦する。必死にiPhoneを構え、ハダシのイメージをカメラにおさめていく。あだ名の由来が気になって仕方がないが、おそらく運動音痴な彼女は、ビート板なしでは泳げないのであろう。

 

 あだ名が気になるのはブルーハワイもまた同じ。かき氷のオーダーが影響していると考えるのは、やや安直か。彼女は、剣道部の経験をいかした殺陣の指導で存在感を発揮する。想定外のラブコメ推しは、彼女の人間的魅力をさらに高めたはずだ。

 

 凛太郎はとにかくまっすぐだ。断り続けていた映画出演も、出ると決まれば、前のめりに演技指導を求める。誰もが思う。「武士の青春」は、あなたしかいない。

 

 ハダシを中心に、仲間はさらに集まった。あだ名そのままのダディーボーイ、デコチャリを乗りこなす小栗、野球部補欠の駒田と増山がユーモア満載で脇を固める。

 

 ハダシを囲む、7人誰が欠けてもいけないし、7人の仲間という設定もまた憎い。

 

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 映画のラストシーンは、「武士の青春」のラストシーンでもある。ハダシたちは無事映画をつくることができたのか?武士と青春に別れは必要なのか?映画は未来につづいていくのだろうか?

 結末は自身の目で確認してほしい。

 ハダシが残した青い足跡を。映画愛に満ちたこの夏を。