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映画レビュー『ハウス・オブ・グッチ(2022)』緊張と緩和。悲劇で、喜劇。

1.作品情報

ハウス・オブ・グッチ

Houe of Gucci

2021/アメリ

監督:リドリー・スコット

 

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https://house-of-gucci.jp

 

 イタリアが誇るラグジュアリーブランド「GUCCI(グッチ)」。

 

 「GG パターン」や緑と赤のシンボルカラーは、ブランドが誇るアイコンとして、世界中で多くの人に愛されている。ここ数年は、デザイナーの「アレッサンドロ・ミケーレ」の圧倒的なクリエイティブセンスによって、日本でも行列になる商品も多い。

 

 今回は、そんなブランド「グッチ」の御家騒動をめぐる映画『ハウス・オブ・グッチ』が公開されたので、早速見に行ってきた。本業では、ファッションを扱っているので、勉強もかねて。

 

2.あらすじ

 貧しい家庭出身だが野心的なパトリツィア・レッジャーニ(レディー・ガガ)は、イタリアで最も裕福で格式高いグッチ家の後継者の一人であるマウリツィオ・グッチアダム・ドライバー)をその知性と美貌で魅了し、やがて結婚する。

 しかし、次第に彼女は一族の権力争いまで操り、強大なファッションブランドを支配しようとする。

 順風満帆だったふたりの結婚生活に陰りが見え始めた時、パトリツィアは破滅的な結果を招く危険な道を歩み始める…。(https://house-of-gucci.jp


www.youtube.com

 

3.監督

 本作を手掛けるのは、『エイリアン』『ブレードランナー』『オデッセイ』など代表作の数知れない映画監督リドリー・スコット。『最後の決闘裁判』が公開されて間もないが、あっというまに最新作が登場した。なんと、御年84歳。働きすぎが心配だが、まだまだ働いてほしい気持ちでもある。どうか健康に。

 

4.主要キャスト

ルド・グッチ<創業者の次男>(アル・パチーノ

 商才に優れ、NYに支店を出すなど海外進出を積極的に行い、グッチを拡大した人物。

 

ロドルフォ・グッチ<創業者四男>(ジェレミー・アイアンズ

 女優の妻亡き後、1人息子を溺愛している。マウリツィオとパトリツィアの結婚に反対する。

 

マウリツィオ・グッチ<ロドルフォの息子>(アダム・ドライバー

 パトリツィアとの結婚によって父親に勘当され、パトリツィアの実家の家業を手伝うが、父親と和解後グッチの経営の中心に。

 

パトリツィア・レッジャーニ<マウリツィオの妻>(レディー・ガガ

 輸送業を営む家に生まれる。パーティで会ったマウリツィオと結婚。アルドやパオロを追いやろうとするなど、グッチを取り仕切る存在になっていく。

 

パオロ・グッチ<アルドの息子>(ジャレッド・レト

 独特のデザインセンスでブランドの新たな路線をつくろうとするが、経営面ではお荷物となる。

 

ピーナ・アウリエンマ<占い師>(サルマ・ハエック

 TVCMを見て電話をかけてきたパトリツィアから数々の悩みを聞き、占いで忠告を与える。

("https://house-of-gucci.jp"に加筆)

 

5.レビュー(一部ネタバレあり)

 穏やかな笑みを浮かべながら、男はカフェのテラスでタバコを燻らせる。三代目としてグッチを率いるその男は、長年の相棒であろう淡いグレーのチェスターコートを羽織り、颯爽と帰路についた。ゆるやかに下る自転車を止めることなく守衛に引き渡し、我が家へ上る途中、男は背後から声をかけられた。「グッチさん?」

 

 陽気に始まったものがたりは、この後どこへ向かうのか。

 

 本作では、華やかなブランドビジネスの裏側にある、泥ついたファミリービジネスの光と影に焦点を当てる。

 

 光は美しい。

 ウインドーショッピングで眺めてきたきらびやかなグッチたちが、画面一杯に溢れている。ゴッドファーザーでしかないアルドの色味。フレンチシックを思わせるロドルフォの品。マウリツィオのスマートなスタイルに、もはや円熟味しかないパトリツィアのルック。うっとりしながら画面の中の光を眺めていた。

 

 一方、影は生々しい。

 ラストネームがグッチであることに気づいたときのパトリツィア。そんなパトリツィアの腹の底を見抜いたロドルフォ。ロドルフォからも、実父のアルドからも相手にされないパオロ。そんなパオロを悲しげに見つめるマウリツィオ。光がまばゆすぎるから、影はより一層深くなる。

 

 光と影に、緊張と緩和を覚える。それは、悲劇で、喜劇でもある。

 

 対比されるはずの出来事や感情は、スムーズに入れ替わるものがたりの主役によって、観客を迷子にさせる。喜んでいたはずの状況に狼狽え、落ち込んでいたはずの事件に歓喜する。世界は違えど、想像が容易なために、一族が向かう未来をどのように祈るべきか逡巡する。ぼくらは答えを知っているのに。

 

 フリーズする僕たちを溶かすのは、ほんのすこしのユーモアだ。

 スポーツよりも激しい事務所での情事。義父にへし折られたプライドの反動。出所後早々の洗い物。

 高貴な一族による人間的衝動は、ときに可笑しく、ときに愛しい。

 

 「ものがたりには、始まりと終わりがある」

 

 一族は今、グッチの経営に参画していない。

 だからだろう、このものがたりは今もまだ続いている。

 映画の続きを見たければ、グッチののれんをくぐりに行こう。

 もちろん、グッチ夫人の気持ちを胸に抱いて。